本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」はじめに

歴史分析と、ちょっと広い時間的な視野の助けを借りると、産業革命以来、格差を減らすことができる力というのは世界大戦だけだったことがわかる。

 

  富が集積され分配されるプロセスは、格差拡大を後押しする強力な力を含んでいる、というか少なくともきわめて高い格差水準を後押しする力を含んでいる。収斂の力も存在はするし、ある時期の一部の国ではそれが有効になるかもしれないが、格差拡大の力はいつ何時上手を取るやもしれない。これが21世紀初頭の現在どうやら起こっているらしい。今後数十年で、人口と経済双方の成長率は低下する見通しが高いので、このトレンドはなおさら懸念される。
  根本的な不等式r>g、つまり私の理論における格差拡大の主要な力は、市場の不完全性とは何ら関係ないということは念頭においてほしい。その正反対だ。資本市場が完全になればなるほど(これは経済学的な意味での話だ)、rがgを上回る可能性も高まる。この執念深い論理の影響に対抗できるような公共制度や政策は考えられる。たとえば、資本に対する世界的な累進課税などだ。

 

本書は論理的に言えば『21世紀の夜明けにおける資本』という題名にすべきだっただろうが、その唯一の目的は、過去からいくつか将来に対する慎ましい鍵を引き出すことだ。歴史は常に自分自身の道筋を発明するので、こうした過去からの教訓がどこまで実際に役立つかはまだわからない。私はそれを、その意義をすべて理解しているなどと想定することなしに、読者に提示しよう。

 

山形浩生 守岡桜 森本正史 訳
r=資本収益率 g=成長率
*収斂に向かう主要な力として、知識や技能の普及が挙げられている。