本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トマ・ピケティ 「21世紀の資本」第III部 格差の構造

第12章 21世紀における世界的な富の格差
  インフレの主な影響は、資本の平均収益を減らすことではなく、それを再分配することなのだ。そしてインフレの影響は複雑で多次元的だが、圧倒的多数の証拠が示している通り、インフレが招く再分配は、主に最も裕福でない人には不利益に、最も裕福な人には利益になる。よって一般に望ましい方向とは正反対と言える。あらゆる人が資産管理に費やす時間を増やすという点で、インフレが純粋な資本収益をわずかに減らす可能性があるのはたしかだ。この歴史的変化は、非常に長期的な資本の減価償却率の増加に似ていると言えるかもしれない。この増加には、投資判断や、古い資産と新しい資産の入れ替えが、もっと頻繁に必要になるのだ。どちらの場合も今日では、所定の収益を得るために少し多く働かなければならない。だから資本はもっと「ダイナミック」になった。だがこれらはレントと戦う方法としては比較的まわりくどく、非効率的だ。これらの原因による純粋な資本収益のわずかな減少は、資本収益の格差拡大よりもはるかに規模が小さいことが実証されているからだ。特に、巨額の財産にはほとんど脅威を与えない。
  インフレはレントを排除しない。それどころか、おそらく資本の分配の格差をさらに拡大するのに一役買うだろう。
  累進資本課税のほうが、民主的透明性と、現実の有効性の両方において、もっと適切な政策だ。

山形浩生 守岡桜 森本正史 訳

*第Ⅳ部 15章16章で、累進資本課税とインフレによる富の再分配について詳細に議論されている。