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本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

サン=テグジュペリ 「人間の土地」砂漠のまん中で

  水よ、そなたには、味も、色も、風味もない、そなたを定義することはできない、人はただ、そなたを知らずに、そなたを味わう。そなたは生命に必要なのではない、そなたが生命なのだ。そなたは、感覚によって説明しがたい喜びでぼくらを満たしてくれる。そなたといっしょに、ぼくらの内部にふたたび戻ってくる、一度ぼくらがあきらめたあらゆる能力が。そなたの恩寵で、ぼくらの中に涸れはてた心の泉がすべてまたわき出してくる。

  そなたは、世界にあるかぎり、最大の財宝だ、そなたはまたいちばんデリケートな財宝でもある、大地の胎内で、こうまで純粋なそなた。酸化マグネシウムの水の泉の上で、人は死ぬかもしれない。鹹湖のふちで、人は死ぬかもしれない。分離塩類を含む二リットルの夜露があっても、人は死ぬかもしれない。そなたは混り気をうべなわない、そなたは不純を忍ばない、そなたは気むずかしい神だ……。

  でもそなたは、単純な幸福を、無限にぼくらの中にひろげてくれる。

 

堀口大学

*分離塩類を含む二リットルの夜露→砂漠での遭難中パラシュートと燃料タンクで夜露を集めるが、不純物が混ざり失敗に終わる。