本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

アン・モロウ・リンドバーグ 「海からの贈りもの」ほんの少しの貝

  一本の木は空を背景にして、はじめて意味を持つ。音楽もまた同じだ。ひとつの音は前後の静寂によって生かされる。蝋燭の光りは、夜の闇に包まれて炎の花を咲かせる。ささやかなものでも、周りに空間があれば、意味を持つようになる。余白の多い東洋画の片隅に、秋草が数本だけ描かれてあるのも、その一例である。

  退屈なことだけではなく、重要なこともまた、わたしたちの生活の邪魔をする。ひとつかふたつの貝殻こそ意味があるのに、わたしたちは宝もの……、貝殻を持ちすぎているのだ。
  この島には空間がたっぷりとある。不思議なことに、島という限られた場所で、かえって空間を感じさせられる。地理的に遠いこと、ひとりでいることの限界、連絡がとりにくいことから、どうしても行動の範囲が限られてくる。そして、仕事も人も物も多すぎず、どれもが充分の時間と空間の中に置かれている。

 

落合恵子