本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

ダニエル・コーエン「経済は、人類を幸せにできるのか?」第2章

イスラエルの保育園の園長は、子どものお迎えの時間に遅れる親が多いことに手を焼いていた。その解決策として、園長は遅れる親に課金することにした。今後、親は一時間遅れるごとに10ドルを支払わなければならないとしたのだ。ところが、その結果は、期待を…

ダニエル・コーエン「経済は、人類を幸せにできるのか?」まえがき

獲得してもすぐに失われてしまう“幸せ”という目的を、絶えず課してくる社会のパラドックスを、どのように理解すればよいのだろうか。その答えはすぐに浮かんでくる。すなわち、人類はあらゆることに慣れてしまうので、幸せになれないのだ。いかなる進歩を達…

ナタリー・バビット「時をさまようタック」

「死ぬことは、生まれたとたんに約束された車輪の一部なんだよ。すきなところだけとり出して、のこりをほうり出すわけにはいかないだろう。そういう全体の一部になるということは、神さまのお恵みだといってもいいな。ところが、わしの一家は、そのお恵みを…

ナタリー・バビット「時をさまようタック」

「わしたちのまわりにいるものはなにか、わかるかい、ウィニー。」 「生命だよ。うごいて、成長して、変化して、二分とおなじ姿をしていない。この水も、毎朝、こうして見ればおなじ水に見える。しかし、そう見えるだけでおなじでないんだよ。一晩じゅう、う…

ナタリー・バビット「時をさまようタック」

「人生は生きなければならないわ。それが長くても短くても。」 小野和子 訳

ナタリー・バビット「時をさまようタック」

土地をもつということは、考えてみればおかしいことだ。いったい、どのくらい深くまでもつことになるのだろう。ある人が土地をもったとしよう。その人は土地のずっと下まで、つまり、地球の中心ですべての土地がひとつになっているところまで、もつことにな…

タゴール「ギタンジャリ」

95 いのちの しきいを越えて 初めて この世に来たとき 私は知らなかった。 この広大な 神秘の中へ 真夜中の森の 一つの蕾のように わたしを誕生させた力は 何だろうか! 暁の光を 見上げたときすぐに わたしはこの世の よそ者でなく 名前も形もない 不思議な…

タゴール「ギタンジャリ」

91 おお お前 生の最後の完成 死よ わたしの死よ わたしに来て 囁いてくれ! わたしは来る日も 来る日も お前を待ちうけ 見張っていた お前のために 世の苦しみも 喜びも 堪えて来た。 わたしのすべての存在 所有 のぞみ 愛は いつもお前に向って 秘かな深い…

タゴール「ギタンジャリ」

90 死が お前の扉を 叩く時 お前は 何をささげるのか? おお 私はそのお客の前に わたしの生命をみたした器を ささげましょう—— 決して空手では かえしません。 わたしの秋の日と 夏の夜の 甘いぶどうのとり入れと いそがしい生涯の すべての収穫と 落穂と …

タゴール「ギタンジャリ」

84 離れている 孤独のかなしみが 世界中に拡がり 無限の空に 数かぎりない形を 生れさせている。 離れている 孤独の悲しみが 終夜黙って 星から星をみつめ 七月の雨の闇に 音立てて鳴る 木の葉の詩(うた)となる。 どこまでも拡がるこの痛みこそ 深まって愛と…

タゴール「ギタンジャリ」

58歓びのあらゆる調子を 私の最後の歌に 混ぜ合わせよう―― 草をゆたかに 大地の上に あふれ出させる歓びを 生と死の 双児の兄弟を 広い世界に 躍らせる歓びを。 笑いで あらゆる生命を 震わせ 目覚めさせながら 嵐と一しょに やってくる歓びと 苦しみに 開い…

タゴール「ギタンジャリ」

31「とらわれの人よ 誰がお前をしばったのか。」「わが主です」囚人は答えた「わたしは富と権力(ちから)では 世界中で誰にも負けないと思っていました。そして 主に返すはずの財宝(たから)をわたしの金庫に 貯えました。ねむりに とらえられて わたしは主の…

タゴール「ギタンジャリ」

29わたしの名前で 閉じこめられた彼はこの地下牢で 泣いている。わたしはまわりに 壁を築くのに いつもいそがしい。この壁が 日ごとに空にまでのびて行きわたしは その暗い蔭の中にわたしの本性を 見失う。 この大壁を わたしは誇りとしほんの小さな 穴ひと…

タゴール「ギタンジャリ」

28束縛は 強い。破ろうとすると 心は痛む。自由こそ わたしの望みのすべてなのだ。けれども それを望むのは 恥ずかしい。 私は信ずる あなたには値ぶみできないほどの 宝がありあなたはわたしの 最上の友であられることを。でも わたしの部屋に充ちた虚飾を…

タゴール「ギタンジャリ」

12わたしの 旅の時は永くその道のりは 遥かに遠い。 あさの光が さしたとき 車で出かけて 世界の荒野を 越えて 数々の星に わだちの跡を 残してきた。 自分自身に 近づく道は一番遠い 旅路なのだ。単純な音色を 出すためにはいちばんめんどうな 訓練(しつけ)…

タゴール「ギタンジャリ」

8王子さまのような衣装や 宝石のくさりを 首につけた子供は 遊びの喜びを すっかりなくしてしまいます。 一あしごとに その衣装が 邪魔をしますから。 それがすり切れてしまったり塵に まみれることを恐れて子供は 世の中から 離れて動くことさえ こわがるで…

ターナー「ターナーによる詩の試作」

ああ、無力感、時ならずあらわれる力汝はもっとも晴れやかなときであっても、妨げとなり朝の和やかな日光も射すことなくかすかな光が射すまえに汝は生まれた 2018ターナー展にて

ターナー「希望の虚偽」

〈光と色彩〉に付した詩 方舟はしっかりとアララテ山に立ち帰り来る太陽は、地上から湿った泡を昇らせるそれらは、光と競いつつプリズムのように失われた大地の姿を映し出すそれらは夏の蠅のごとく儚い希望の前触れ飛び上がり、漂い、ふくらみ、死ぬ 2018タ…

ターナー「希望の虚偽」

〈パレストリーナ〉に付した詩 はるか彼方の城壁の岩、高くそびえるパレストリーナおのが力を見誤り、カルタゴ人は立つ鷲のごとき眼差しで、ローマを我が生贄として眺む 2018ターナー展にて

ターナー「希望の虚偽」

〈グリゾンの雪崩〉に付した詩 沈みゆく太陽は別れの悲しみとともに不吉な輝きを放ちながら近づく嵐舞っては積もる雪また雪途方もない重さで岩の障壁を打ち砕く松の森も一瞬にして崩壊しそそりたつ氷河も崩落する時を経たすべてのものが押しつぶされる残るは…

ミヒャエル・エンデ「遠い旅路の目的地」

その後の十年というもの、シリルは、定住を知らぬ旅の毎日を続けた。シリルが「遠征」と名付けた生活にもまったく慣れ、それがあたりまえの生き方となった。いつかどこかで、さがすものが現実に見つかるという、若年の頃の甘い期待は、言うまでもなくとうの…

ミヒャエル・エンデ「遠い旅路の目的地」

だが、「思い出」という言葉が何を意味するというのか。意識は思い出の上に築き上げられるが、それはなんと弱々しいことか。今、話した、読んだ、おこなったことは、次の瞬間にはすでにもう現実でない。それはただ記憶の中に存在するにすぎない——人生そのも…

ミヒャエル・エンデ「遠い旅路の目的地」

「そうして、人はなんでも見つけた。太古の怪獣や獣人の骨なども——なぜだと思いなさる。それをさがしたからじゃ。そうしてこの世界全体を造り上げた。少しずつ造り上げたのじゃ。そして人は、神が世界を造りたもうた、と言っている。しかし、この世界がどん…

ミヒャエル・エンデ「遠い旅路の目的地」

「そうして、人はなんでも見つけた。太古の怪獣や獣人の骨なども——なぜだと思いなさる。それをさがしたからじゃ。そうしてこの世界全体を造り上げた。少しずつ造り上げたのじゃ。そして人は、神が世界を造りたもうた、と言っている。しかし、この世界がどん…

ミヒャエル・エンデ「自由の牢獄」

「生まれてからこれまでというもの、おまえはあれやこれやと決めたときに、理由があると信じていた。しかし、真実のところ、おまえが期待することが本当に起こるかどうかは、一度たりとも予見できなかったのだ。おまえの理由というのは夢か幻想にすぎなかっ…

リルケ「若き詩人への手紙」

一つの芸術作品に接するのに、批評的言辞をもってするほど不当なことはありません。それは必ずや、多かれ少なかれ結構な誤解に終るだけのことです。物事はすべてそんなに容易に摑めるものでも言えるものでもありません、ともすれば世人はそのように思い込ま…

リルケ「若き詩人への手紙」

必然から生まれる時に、芸術作品はよいのです。こういう起源のあり方の中にこそ、芸術作品に対する判断はあるのであって、それ以外の判断は存在しないのです。だから私があなたにお勧めできることはこれだけです、自らの内へお入りなさい。そしてあなたの生…

リルケ「若き詩人への手紙」

あなたの御判断に、それ自身の静かな、乱されない発展をお与えになって下さい。それはすべての進歩と同じように、深い内部からこなければならぬものであり、何物によっても強制されたり、促進されたりできるものではありません。月満ちるまで持ちこたえ、そ…

リルケ「若き詩人への手紙」

ごく微かな、ほとんど口に出しては言うことのできないようなものを解き明かさなければならない時、どんなにすぐれた人々でも言葉に誤ちを犯すものなのです。 高安国世 訳

リルケ「若き詩人への手紙」

孤独が大きなものであることに気づかれたならば、それをお喜び下さい。なぜなら(そうあなたは自問なさって下さい)偉大さを持たない孤独とは何ものであろうか、と。孤独はただ一つあるきりで、それは偉大で、容易ににない得られないものです。そしてほとんど…