本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

スベトラーナ・アレクシエービッチ 「チェルノブイリの祈り」第3章

農村の人たちがいちばんきのどくです。なんの罪もないのに苦しんでいる、子どものように。チェルノブイリを考えだしたのはお百姓じゃない、彼らは自分たちなりに自然とかかわってきたんですから。それは100年も1000年も昔そのままの、信頼に満ちたもちつもた…

スベトラーナ・アレクシエービッチ 「チェルノブイリの祈り」第3章

最初の数日、いろんな感情が混じりあっていました。いちばん強かった二つの感情を覚えています。恐怖といらだちです。すべては起こってしまったのに、情報はいっさいありませんでした。政府は沈黙し、医者はひとことも語ろうとしません。地区では州からの指…

スベトラーナ・アレクシエービッチ 「チェルノブイリの祈り」第3章

核戦争にそなえての通達には、核事故、核攻撃のおそれがあるときにはただちに住民に対してヨウ素剤処置をとるように指示されています。おそれがあるときだって?当時、毎時3000マイクロレントゲンもあったのに。連中が心配しているのは住民のことじゃない、…

エマニュエル・トッド 「問題は英国ではない、EUなのだ」

なぜ知的なエラーが起きるのか?いきなり「人間とは何か?」と自問して、観念から出発するから歴史を見誤ってしまうのです。そうではなく、まず無心で歴史を見る。すると、むしろ歴史の方が「人間とは何か?」という問いに答えてくれます。何よりも歴史を観察…

エマニュエル・トッド 「問題は英国ではない、EUなのだ」

価値観の伝達の問題に戻りますが、私も当初は、親が子供に教え込むことを通して価値が伝達されるという精神分析学的モデルに則っていました。子供の無意識の中にハンマーで叩き込まれるような「強い価値」によって価値の伝達が維持される、と考えていたので…

エマニュエル・トッド 「問題は英国ではない、EUなのだ」

こうして、好きとか嫌いとか、良いとか悪いとかいったア・プリオリな思い入れから自由な観察者でいるとき、表面的には複雑きわまる歴史的現実の中に非常に単純な一種の法則のようなものが見えてくることがあるのです。 私がこれは実際そうに違いないと見抜い…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 72

我々の感覚は、極端なものは何も認めない。あまりに大きい音は、我々をつんぼにする。あまりに強い光は、目をくらます。あまり遠くても、あまり近くても、見ることを妨げる。・・・すなわち、両極端な現象は、我々にとっては、あたかもそれが存在していない…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 72

このように全ての事象は、引きおこされ引きおこし、助けられ助け、間接し直接するのであり、そして全てのものは、最も遠く、最も異なるものをもつなぐ、自然で感知されないきずなによって支えあっているので、全体を知らないで各部分を知ることは、個別的に…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 135

人は、いくつかの障害と戦うことによって安息を求める。そして、もしそれらを乗り越えると、安息は、それが生み出す倦怠のために堪えがたくなるので、そこから出て、激動を請い求めなければならなくなる。なぜなら、人は今ある悲惨のことを考えるか、我々を…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 152

好奇心は、虚栄にすぎない。たいていの場合、人が知ろうとするのは、それを話すためでしかない。さもなければ、人は航海などしないだろう。それについて決して何も話さず、ただ見る楽しみだけのためで、それを人に伝える希望がないのだから。 前田陽一 責任…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 172

我々は現在についてはほとんど考えない。そして、もし考えたにしても、それは未来を処理するための光をそこから得ようとするためだけである。現在は決して我々の目的ではない。過去と現在とは、我々の手段であり、ただ未来だけが我々の目的である。このよう…

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 198

小さなことに対する人間の感じやすさと、大きなことに対する人間の無感覚とは、奇怪な転倒のしるしである。 前田陽一 責任編集

パスカル 「パンセ」ブランシュヴィック版 404

人間の最大の卑しさは、名誉の追求にある。だが、それがまさに人間の優秀さの最大のしるしである。なぜなら、地上にどんな所有物を持ち、どんなに健康と快適な生活とに恵まれていようと、人々は尊敬のうちにいるのでなければ、人間は満足しないのである。彼…

アダム・スミス 「国富論」第一編第一章

社会の進歩のつれて、学問や思索は他のすべての仕事と同じように市民の一特定階級の、主要なまたは唯一の職業となり生業となる。そのうえ、他のすべての仕事と同じように、この職業も多数の異なった分野に細分され、そのおのおのは、学者たちの特別の仲間や…

アダム・スミス 「国富論」第一編第十章

つまらない仕事では、労働の楽しみはもっぱら労働の報酬にある。その楽しみを最もはやく受け取れる状態にある人は、それを味わうことに最もはやく思いをめぐらし、そしてまた、勤勉の習慣をはやく身につけがちである。若い人は、長いあいだその労働からなん…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

彼女は、自分が全く普通だと信じていた。彼女の死にたいという選択の裏には、簡単な理由が二つあり、もしそれを説明するメモを残したら、多くの人が彼女に賛成してくれるだろう。 一つ目の理由は、彼女の人生の全てが代わり映えせず、一度若さを失ってしまえ…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

「狂気とはね、自分の考えをコミュニケートする力がないことよ。まるで知らない外国にいて、全て周りで起こってることは見えるし、理解もできるのに、知りたいことを説明することもできず、助けを乞うこともできないの。みんなが話している言葉が分からない…

パウロ・コエーリョ 「ベロニカは死ぬことにした」

そのうえ、最新のリサーチで、戦時中には確かに精神的な犠牲者はいるものの、ストレス、退屈、先天的な病気、寂しさ、拒絶による犠牲者よりずっと少なかった。コミュニティが大きな問題に直面する時、例えば、戦争、超インフレ、疫病などだが、自殺者数にほ…

ヘミングウェイ 「老人と海」

やつの賭けは、わなや落とし穴や奸策をのがれて、あくまであの暗い海の底で頑ばることだった。ところで、こっちの賭けも、あらゆる人間の群れからのがれて、いや、世界中の人間から遠ざかって、その海の底までやつを追いかけていくことだ。というわけで、お…

ヘミングウェイ 「老人と海」

おまえはおれを殺す気だな、老人は心のうちでおもった。なるほどその権利はある。おい、兄弟、おれはいままでに、おまえほど大きなやつを見たことがない。おまえほど美しいやつも、おまえほど落ちついた気高いやつも見たことがないんだ。さあ、殺せ、どっち…

ヘミングウェイ 「老人と海」

「けれど、人間は負けるように造られてはいないんだ」とかれは声にだしていった、「そりゃ、人間は殺されるかもしれない、けれど負けはしないんだぞ」 福田恆存 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第4編

ぼくは自分の考えや仕事は大いに高く買ってはいる、だが、実際のところ、考えてみてくれよ、我々のこの世界なんて——小さな遊星の上に生えたほんのかびにすぎないじゃないか。それなのに、我々はこの世界に、何か偉大なものが——思想とか事業とか——存在し得る…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第6編

—— 分かっておくれよ、ぼくは嫉妬なんかしているんじゃないんだ。これはいまわしい言葉だ。ぼくには嫉妬なんか出来もしないし、そんな……なんていうことは信じられもしない。自分の感じていることがどうもうまく言えないんだが、これは恐ろしいことだ……ぼくは…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第6編

——まあそういうわけでだね、君。二者択一が必要なのさ。今日の社会制度を正しいものと認めて、その上で自己の権利をまもるか、さもなければ、ぼくがやっているように、不正な特権を利用していることを認めながらも、それを喜んで利用するか、だ。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第7編

つまり、彼女が彼に嫉妬したのは、どこかの女のためではなくて、彼の愛情の減少に対してだったのだ。嫉妬の対象はまだもっていなかったので、彼女はそれを探しだそうとした。そしてほんの些細な暗示ででも自分の嫉妬の対象を次々と移した。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第7編

すると彼女は突然、自分の心にあるものを悟った。そうだ、この考えこそすべてを解決してくれるものなのだ。《そうだわ、死ぬことだわ……!》 《そうなれば良人カレーニンやセリョージャの恥も、不面目も、わたしのおそろしい恥辱も——なにもかもが死によって救…

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第8編

《無限の時間、無限の物質、無限の空間の中に泡のような有機体が浮び出る、そしてその泡はしばらくとどまって、消えてしまう、そしてその泡が——このおれなのだ》。 中村融 訳

トルストイ 「アンナ・カレーニナ」第8編

もし善が原因をもつものならば、それはすでに善ではない。もしそれが結果を—酬いをもつものならば、それもやはり善ではない。従って善は因果の鎖の外にあることになる。 そしてそのことは、おれも知っているし、われわれみんなが知っていることなのだ。 とこ…

ウンガレッティ 「ウンガレッティ詩集」

オリエントの面影 しめやかに移ろう微笑みのなかでぼくらはつながれているのだ渦巻き芽生える欲望に ぼくらは熟れてゆく太陽に摘みとられながら ぼくらはあやされているのだ期待という無限の網目のなかで太陽を浴びながら 目を閉じれば湖のなかを泳いでゆく…

ウンガレッティ 「ウンガレッティ詩集」

いつもの夜 わびしい人生が先へ先へと延びてゆくさらにおのれに怯えながら かすかな肌触りでぼくを押しつけ踏みつけてゆくあの無限のなかへと 河島英昭 訳