本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」第8章

絶えず多くを欲しがるうちに、私たちは労働の楽しみを台無しにしてしまった。あまりに欲しがり過ぎ、あまりに働き過ぎている。現代の文明は、過去のどの文明よりもゆたかではあるが、満足感すなわち「十分」という感覚からはほど遠いという点では、はるか昔…

トーマス・セドラチェク 「善と悪の経済学」終章

象牙の塔では専門用語が氾濫し、異なる分野と相互理解や意思疎通ができなくなっている。これは、個々の分野がそれぞれに空高く舞い上がり、孤立し、共通の大地が空っぽになってしまったからではあるまいか。科学の世界で みられる言葉の混乱は、バベルの塔を…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第1章

ポイントは、オートメーションは悪いものだということではない。オートメーションと、その先駆者である機械化は、何世紀にもわたって前進してきたのであり、その結果われわれの状況は、全般的に大きく改善されてきた。オートメーションは賢く使えば、われわ…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第2章

近年の不況で失われた職のほとんどが高賃金業種のものだったのに対し、不況後に創出された雇用の四分の三は低賃金部門である。2000年以後の合衆国における「信じがたく弱々しい経済成長」の原因を研究したMITの経済学者、デイヴィッド・オーターは、IT(情報…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第4章

われわれのほとんどはホワイトヘッドと同様、オートメーションをよいものだと考えている。われわれをより高度な職へと引き上げてくれるものの、その他の点では、行動や思考のあり方を変えるものではないと思っている。だがそれは誤謬だ。オートメーションの…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第4章

グーグルや、他のソフトウェア会社はもちろん、われわれの生活を楽にする事業を行っている。それをわれわれが求めているのであり、だからこそわれわれはこれらの社会を支持している。だが彼らの作るプログラムが、われわれの思考の代行に熟達するにつれ、当…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第4章

ロッククライマーから外科医、ピアニストに至るまで、「ある活動に深い喜びを恒常的に見出す」人々は、「体系づけられた難題のセットと、それに対応するスキルのセットが、最適な経験を生み出すことの例証である」とミハイ・チクセントミハイは述べる。彼ら…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第5章

システムの精密化は、それが機械的に動作するものであれデジタルに動作するものであれ、役割や責任の分割のされ方を決定するのであり、その結果、行使するよう各当事者に求められるスキルの種類も決定される。スキルが組みこまれれば組みこまれるほど、機械…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第5章

思考のアウトプットを複製しても、それは思考ではない。チューリング自身が強調しているとおり、アルゴリズムは直感の完全な代わりにはならないのである。「推論の意識的連鎖の結果ではない自発的判断」が生じる場が必ずある。われわれを知的な存在としてい…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第5章

もしわれわれが不注意であれば、知的労働のオートメーション化は知的努力の性質と焦点を変化させ、最終的に、文化そのものの土台のひとつを侵食してしまうだろう——つまり、世界を理解したいというわれわれの欲望を、である。予測アルゴリズムは、相関関係の…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第6章

スコットランドにあるアバディーン大学の人類学者、ティム・インゴールドは、旅行にはまったく異なる二つの種類があるという——「旅〔wayfaring〕」と「輸送〔transport〕」である。彼の説明によると、旅とは「われわれが世界に存在する最も根本的な方法」だ…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第6章

テクノロジーを自己の一部にすることが容易であるがゆえ、われわれは迷走することもある。最も利益になるとは限らないかたちで、道具に力を与えてしまうことがあるのだ。われわれの時代の最大のアイロニーのひとつは、思考や記憶、スキルの発達において、身…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第7章

新しいテクノロジーは、初期の段階では従順だ。その形態と用途は、設計した者の欲望だけでなく、使用する者たちの関心、社会全体の利害によっても形成されうる。だが、物理的インフラや商業的・経済的配列、個人的・政治的な規範や期待のなかにいったん根づ…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第8章

視点次第で善にも悪にも見えるサイクルを、われわれは起動させた。アプリケーションやアルゴリズムへの依存を強めるにつれ、それらの補助なしに行動することはますますできなくなっている——われわれはスキルの抜け落ちだけでなく、注意力の抜け落ちも経験し…

ニコラス・G・カー 「オートメーション・バカ」第8章

近代世界はいつも複雑だった。スキルや知識は専門領域へと断片化され、経済などのシステムが入り乱れ、全体を把握しようとするあらゆる試みは却下される。しかし現在、人類のこれまでの経験すべてをはるかに超えるレベルで、複雑さそのものがわれわれの目か…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」序章

今日、尊大の罪を犯しているのは、世界には経済発展以外の使命はないと考える人々の方である。それ以外の人々は、自分を売り渡さないときには身を守ろうとするものだ、たとえそれが恐怖から生まれた狂暴な態度によってであっても。とすれば、まず一歩譲らな…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」第1章

ゆっくりしなければならない。田園を行く古い列車や黒衣をまとった農婦のように。徒歩で進み、世界が魔法の力によって開かれるのを目の当たりにする人のように。なぜなら、歩くとは本のページをめくることなのに、急いでいるときは本の表紙しか目を留めるこ…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」第3章

世界大のメディアの作用はある意味で貨幣の作用と似ている。もはや到達できない場所はなく、われわれはみな不可避的に、メディアを通じてのさまざまなコミュニケーション関係によって築かれた世界共同体の構成員になっている。貨幣と商業がローカルな自給自…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」第5章

一人の子どもがお金がなくとも愉しむことのできる富があることを知り、また美が報酬を求めることなくどの街角でも彼を待っているとすれば、その子は永遠に、私有財産を蓄積する閉所恐怖症の世界からは自由になる。 「幸福な貧困」とはたぶんただの牧歌に過ぎ…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」カッサーノへのインタビュー

最初の前提として、各地域・各社会が自律的にその発展を考えなければなりません。例えば、南は北が自分の将来である、したがって自分が「まだ北になっていないもの」と考えるのをやめなければなりません。このような自己表象はニュートラルではなく、その反…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」カッサーノへのインタビュー

わたしが説こうとする「遅さ」は、人生は単なる強迫観念になった競争に支配される必要がないことを思い出させてくれます。この強迫観念になった競争のために、先進国の裕福な人々は貧乏人のように、つねにばたばたして急いでいるのです。 世界の加速化は、必…

フランコ・カッサーノ「南の思想」カッサーノへのインタビュー

何かを知るためには、専門的なボキャブラリーの限界・境界、科学的言語そのものの境界を乗り越えなければなりません。場合によっては、文学が人文科学よりも強力なかたちで現実について語ることもあります。しかし、かと言って、文学が、何人かが考えている…

フランコ・カッサーノ 「南の思想」カッサーノへのインタビュー

西洋は自分がすべての原理主義の正反対だという自己イメージをもっているようですが、これは間違いです。とても深刻な間違いです。じつは西洋もその独特の原理主義をもっているのです。それは、競争や消費や、一人一人の人間を分離させ人々を憤慨させる個人…

ベール・ラーゲルクヴィスト 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

星空の下で ここに僕は立ちつくす無言で。ここに僕は額を垂れる聖なる空間よどんな人間の言葉も真実ではない。 山室静 訳

ベール・ラーゲルクヴィスト 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

杖はわれらの手から…… 杖はわれらの手から落ちるだろうさすらいの旅も終るのだ人間の土地は荒れはてて横たわりもはや何物もそこには起らぬだろうひとりの人間も遠くを眺めずひとりの若者も目ざめぬだろうひとりの巡礼も固い臥床の上で彼の心の条幅を味わうこ…

ポール・ラ・クール 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

樹木 夏じゅう、ぼくはおまえを見つめていた、木よだが、ぼくら双方の沈黙歌がはじまる前の深い、あらあらしい抑圧はただおまえのためにのみ歌となったおお、ぼくの通り道の土に根をはやして成長する詩人よぼくらはきっと出あうことができるのだぼくの中にあ…

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

光の蝶よ 光の蝶よばらに近づいていくと美は飛びたつ 夢中で追いかけてあちこちで捕えかけるが この手に残ったのはただ逃げたその跡 鼓直 訳

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

英知よ ぼくに授けてくれ 英知よ ぼくに授けてくれ もろもろの事物の正確な名前を ぼくの言葉がぼくの魂によって新たに造られた事物そのものであるようにそれらを知らぬすべての者が ぼくを越えてもろもろの事物に到達しうるようにそれらを忘れていたすべて…

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」新潮社より

眠りは 今日から明日へ 眠りは 今日から明日へ渡された橋その下を 夢のように水が流れる 鼓直 訳

フアン・ラモン・ヒメネス 「現代詩集Ⅳ」 新潮社より

郷愁 心の海はのどかに脈打つ果しのない凪の中で星の背がきらめいている忘却と慰籍の空の下で 大きな魔法の洞穴にこもっているようだ世間の人のために着飾った春がいま出ていった洞穴に その春が残した非在の中の何という静けさ 孤独な悦び外で笑いさざめく…