本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

アーシュラ・K. ル=グウィン「ファンタジーと言葉」

読むというのは非常に神秘的な行為です。これまでに見ることが読むことの代わりをしたことは絶対に一度たりともありませんし、これからも、どんな種類にせよ、見ることは読むことに取って代わりはしないでしょう。見ることはまったく別な仕事で、その報酬も…

アーシュラ・K. ル=グウィン「ファンタジーと言葉」

話し手と聞き手の間の相互コミュニケーションは力強い行為である。個々の話し手の持つ力は、聞き手たちの同調によって増幅され、増大する。共同体の強さは、話を通じての相互的同調によって増幅され、増大されるのである。 発話が魔術的であることの理由はこ…

アーシュラ・K. ル=グウィン「ファンタジーと言葉」

話し言葉は、最も特別に人間的な音であり、最も重要な種類の音であって、単なる景色であることは決してなく、常に出来事である。 ウォルター・オングは言う。「音は、それが消えようとするときにしか存在しない」。これは単純だけれども非常に複雑な陳述であ…

トーベ・ヤンソン「彫刻家の娘」

ようするに、〈危険なもの〉を逃してやることはだれにでもできるが、肝心な点は、それにふさわしい場所をあたえてやるということなのだ。 冨原眞弓 訳

トーベ・ヤンソン「彫刻家の娘」

ほんとうに大切なものがあれば、ほかのものすべてを無視していい。そうすればうまくいく。自分の世界に入りこみ、目をとじて、おおげさな言葉を休まずつぶやきつづける。そのうち確信がもてるようになる。 冨原眞弓 訳

トーベ・ヤンソン「彫刻家の娘」

幻想の人たちが霧のようにぼんやりして消えてしまうときには、いつも悲しい気持ちになる。ちゃんと物語を組みたてようとしても、やっぱり影も形もなくなってしまう。そうなると語りつづけてもむだだ。ますますばかばかしくなり、よけいにひとりぼっちになる…

トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の仲間たち」

「そのちょうしでいくと、おまえはたちまち、おとなになるな。パパやママみたいになって、さぞ世間の役にたつことだろう。そうなったら、おまえはただありきたりのことしか、見たりきいたりしないんだ。いっとくけど、そりゃなんにも見ず、ききもしないって…

トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の仲間たち」

——なぜみんなは、ぼくをひとりでぶらつかせといてくれないんだ。もしぼくが、そんな旅のことを人に話したら、ぼくはきれぎれにそれをはきだしてしまって、みんなどこかへいってしまう。そして、いよいよ旅がほんとうにどうだったかを思いだそうとするときに…

東宏治「ムーミンパパの『手帖』」トーベ・ヤンソンとムーミンの世界

心のなかに所有するとは、つまり記憶することであるが、それを不用意にことばにして喋ってしまうと(つまり形式化すると)、今度はそのことば(形式)だけが記憶に残って生きながらえ、美しいものの記憶が消えてしまう。美はそれほどに脆いものなのだ。しかし、…

中島義道「ひとを〈嫌う〉ということ」

私が——不遜ながら——自己変革を要求したい人は、こういう善良かつ盲目な人に対してです。こんなに一生懸命にしているのに、報われない。あたりまえです。人生とはその労力に比例して報われないことが自然だからです。こんなに訴えているのにわかってもらえな…

中島義道「ひとを〈嫌う〉ということ」

善人とは他人と感情を共有したい人のことです。他人が喜ぶときには共に喜び、悲しむときには共に悲しむ。自分が喜ぶときも、他人も同じように喜んでもらいたい。自分が悲しいとき、他人も同じように悲しんでもらいたい。こうして、たえずとりわけ近い他人の…

中島義道「人間嫌い」のルール

したいことをしない人生はつまらない。なぜ多くの人は、どうせ死んでしまうのに、したいことをしないのであろう?安全な人生を歩もうとするのであろう?もちろん、したいことをした結果、刑務所にぶち込まれるかもしれない。飢え死にするかもしれない。だが…

中島義道「人間嫌い」のルール

世間のうちで生きていくこと、それはたえまなく「したくないこと」をしなければならないことである。だが、これはそれ自体美徳ではなく、社会が滅亡しないための——それだけのための——必要悪である。だから、社会の存続をそれほど重視しない人間嫌いにとって…

中島義道「人間嫌い」のルール

人間嫌いは、あらゆる人間からの独立を目指すと同時に、あらゆる土地、風土、故郷からの独立を目指す。私もそうであるが、本質的にデラシネ(根無し草)なのだ。自分の故郷、自分の通った小学校、自分の学んだ大学などに強い郷愁を覚える者は、人間嫌いという…

中島義道「人間嫌い」のルール

というわけで、(ニーチェの考察を深めて考えれば)同情は四重の非道徳的行為である。(1)同情を求める卑劣なルサンチマンとの共謀行為であるゆえに、(2)相手を見下しているゆえに、(3)それにもかかわらず見下していないと自分を欺くゆえに、そして(4)その結果…

中島義道「人間嫌いのルール」

いかなるものに対して共感すべきかは共同体の有する倫理的風土であって、その風土の中で個人の共感能力は形成される。しかも、これは理詰めではなく、きれいごとではない。与えられた共同体のうちで期待される共感のスキルと態度が、個々人のからだに容赦な…

トルストイ「生きる武器を持て」

本当の幸福はすぐに獲得できるものではなく、努力し続けることによって得られるのだ。なぜなら、本当の幸福は、完成に向けたたゆまぬ努力の中にこそ存在するからだ。——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

賢い人間はいつも自分の思うままに生きている。それは、達成できることしか望まないからだ。こういう人間が自由なのである。——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

自分が自由でないと感じるなら、その理由は自分のうちに求めるといい。——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

幸福は外的な要因に左右されるのではなく、それに対する人間の態度によって決まるものだ。苦しみに耐えることを覚えた人間は、もはや不幸にはならない。 ——少年時代 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

私たちが認識しているものはすべて、現実に存在しているものではない。それは、現実に対する私たちの限られた理解力の産物なのだ。 ——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

あらゆる学問に精通しているのに、自分自身を知らない人間は、哀れで無知な人間であり、知識はなくても、自分の内面を理解している人間は、立派で見識のある人間である。 ——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

知識のとぼしい者はよくしゃべり、知識が豊富な者はたいてい黙っている。少ししか知らない者は、自分の知っていることはすごく重要だと思って、みんなに話したがる。多くを知る者は、自分の知らないことがまだたくさんあることをわきまえている。そのため、…

トルストイ「生きる武器を持て」

芸術についてあれこれ考えたり、議論したりすることは、単なる暇つぶしにすぎない。本当に芸術を理解している人は、作品そのものが語りかけることを知っている。だから、言葉で語ることの無意味さも理解しているのだ。芸術を論じる人のほとんどは、芸術をわ…

トルストイ「生きる武器を持て」

人が行うことの中で最悪の行為のひとつは、「みんなと同じに、横並びに」というルールに従うことだ。——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

世間一般の習慣に背いて、人々をいら立たせるのはよくないが、さらに悪いのは、大勢の人間がやっているからといって、自分の良心や知性の声を無視することだ。 ——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

富は畑の肥やしに似ている。 一カ所に積んであると悪臭を放つが、畑にまかれれば土地を肥やす。 ——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

人間が智恵を絞って考えだすことのほとんどは、労働する人々の仕事を軽減するためではなく、金持ち連中がさらに快適に暮らすために使われる。——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

妙に複雑な理屈で説明される行為は、悪事と見て間違いない。良心が決めることは常に厳正でシンプルである。 ——智恵の暦 宮原育子 訳

トルストイ「生きる武器を持て」

不当な評価を受けたら、必死にあらがうのではなく、小さなユーモアで笑い飛ばす。 ある賢い人間が、あなたは悪い人だと思われていますよ、と告げられた。 その人はこう答えたという。 「それはよかった。みなさん私のことを何もかも知っているわけじゃないん…