本を掘る

これまで読んだ本から一節を採掘していきます。化石を掘り出すみたいに。

トルストイ「生きる武器を持て」

  時は私たちの後ろにあり、また私たちの前にあるが、今このときには存在しない。

  時間というものは存在しない。あるのはただ限りなく小さな現在だけで、私たちの生活はこの現在にしか存在しないのだ。

  だから、私たちは現在にのみ精神力のすべてを集中しなければならない。

——智恵の暦

 

宮原育子 訳  

トルストイトルストイ「生きる武器を持て」

  喜びをもって生きるための最良の方法は、人生は喜びのために与えられたのだと信じることだ。

  もし喜びが消えてしまったなら、自分がどんな間違いをしたのか、考えなくてはならない。       ——智恵の暦

 

宮原育子 訳  

トルストイ「トルストイの言葉」

  ふくろうは闇の中では目が見えるが、太陽の光のみなぎっている場所では盲目にひとしい。学者にもこれと同じような現象が見られる。彼らは不必要な学術上の些事なら知っているが、人生にとって最も必要なこと——つまり、われわれはこの世をいかに生きなければならないかという問題——についてはなにも知らないし、また知ることはできないのである。

 

  多くの本を読み、そこに書いてあることをことごとく信じるよりは、むしろ一冊の本も読まないほうがいい。本を一冊も読まなくても、人間は賢くなれる。本に書いてあることを、そのまま頭から信じるならば、人間は馬鹿になるよりほかはない。

                                                                               (人生の道)

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  科学者と芸術家は、民衆に奉仕することを自分の目的としたときにはじめて、自分の活動は民衆にとって有益だ、と言いきることができる。しかし彼らはいま、ひたすら政府と資本家に奉仕することを自分の目的としている。

          (われらはなにをすべきか)

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  芸術は快楽でもなければ慰みごとでもなく、また遊びごとでもない。芸術は偉大な事業である。芸術は、人間の理性的意識を感情へ移す働きをする、人類の生活の機関なのだ。                                                  (芸術とはなにか)

 

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  最悪の泥棒は、自分にとって必要な金品を盗む者ではなく、自分にはそれほど必要でないが、他人にはなくてかなわぬ品物を、他人に与えず握ってはなさない男である。                      (人生の道)

 

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  金銭——それは他人の労働を利用する可能性、あるいは権利である。金銭は、奴隷制度の新しい形式である。それと奴隷制度の古い形式との相違点は、特定の人間をその対象としていない点、奴隷に対するあらゆる人間関係が、すべて省略されている点だけである。

 

  金銭は、奴隷制度と同じものである。その目的も、その結果も、まったく同じである。

                                                                               (われらはなにをすべきか)

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  自分の手を使って働かない限り、健康な肉体に恵まれることはない。また健全な思想も頭にわくものではない。          

 

  自分では働くことをせず、他人の労働によって生活している金持どもはすべて、たとえ彼らがどのように自称していても、彼らが自分で働かないで他人の労働を強奪している限り、そうした人間はひとり残らず、強盗である。そしてこの強盗には三種類ある。つまり、自分たちが強盗であることに気づかないで、あるいは気づこうとしないで、自分の兄弟たちに平然として強盗を働いている連中。つぎに、自分たちが間違っていることに気づきながらも、自分たちが軍人として、あるいは各種の役人として勤務していることで、または他人を教え、本を書き、書物を出版していることで、自分たちの強盗行為を正当化することができるかのように考えて、依然として強盗をつづけている連中。それから、自分たちの罪を知っていて、この罪からなんとかして抜け出そうと努力している人たちである。

                                                                                                          (人生の道)

小沼文彦 訳編  

 

トルストイ「トルストイの言葉」

  われわれが自分の個性として知っているもの、およびわれわれがこの宇宙全体において見たり、聞いたり、触れたりすることのできるすべてのもののほかに、さらに目に見えない、肉体を具備しない、初めもなければ終わりもない何ものかが存在し、この何ものかがすべてのものに生命を与えている。そしてこの何ものかがなかったら、他のいかなるものも存在しないだろうと思われる。この本源をわれわれは神と名づける。

 

  もしも私が浮わついた生活を送っているのなら、私は神なしでもすますことができる。しかし、この世に生まれ落ちたとき自分は果たしてどこからやってきたのか、そして死んだらどこへ消えて行くのか、などということを考えるとき、私は、私を送り出し、そしてまた迎え入れてくれるもののあることを、どうしても認識せずにはいられない。私は、この自分が、なにか不可解なものからこの世に送り出され、そして再びその不可解なもののところへ帰って行くものであることを、どうしても認識しないわけにはいかない。

  私を送り出し、そしてまた迎え入れてくれるこの不可解なものを、私は神と呼ぶのである。          

                                                                                                 (人生の道)

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  時はわれわれの背後にある。また時はわれわれの前面にある。しかしわれわれとともには決して存在しない。過去もしくは未来の実像について、深く考えるようになると同時に、われわれは、われわれのいちばん大事なもの、つまり、現在における真の生活を失うようになる。

 

  時間は存在しない。存在するのはただ現在の、この瞬間だけである。そしてそこに、その瞬間に、われわれの全生活は存在するのだ。それ故にわれわれは、この一瞬に自己の全力を傾注しなければならない。

 

  過去はすでに無いものであるし、未来は未だ来ないものである。それでは現実に存在するのはいったい何であるか?過去と未来が融合する一点だけである。一点——これは皆無にひとしく思われるかもしれない。しかしながら、この一点にのみ、われわれの全生活は存在するのである。

                                                                                                       (人生の道)

小沼文彦 訳編  

トルストイ「トルストイの言葉」

  喜べ!喜べ!人生の事業、人生の使命は喜びだ。空に向かって、太陽に向かって、星に向かって、草に向かって、樹木に向かって、動物に向かって、人間に向かって喜ぶがよい。この喜びが何物によっても破られないように、監視せよ。この喜びが破れたならば、それはつまり、お前がどこかで誤りをおかしたということだ。その誤りを探し出して、訂正するがよい。             (日記)

 

小沼文彦 訳編