スタンダール「赤と黒」
「君の性格のなかには、少なくとも、わしにとっては定義しがたいなにかがある。そのために、君は出世しなければ、迫害されるだろう。君には、中庸の道はない。思い違いしてはいけない。話しかけても、君が喜ばないことを、他人は見ている。」
大岡昇平・古屋健三 訳
老子訳注
信言は美ならず、
美言は信ならず。
善なる者は辯ならず、
辯ずる者は善ならず。
知る者は博さず、
博す者は知らず。
聖人は積えず、
既く以て人の為にして己れは愈いよ有り、
既く以て人に与えては己れは愈いよ多し。
天の道は、
利して而うして害なわず。
聖人の道は、
為して而うして争わず。
真実のことばは美しくはなく、美しいことばは真実のことばではない。善き人はうまく話さず、うまく話す者は、善き人ではない。ほんとうにわかっている人はひけらかさず、ひけらかす人はほんとうはわかってはいない。「聖人」は何もたくわえず、ありったけの力を出して人を助けて、自分はかえっていっそう充実し、すべてを人に与えて、自分はかえっていっそう豊かになる。天の「道」は、万物に利益を与えて害なうことはない。「聖人」の「道」は、何をするにも人と争うことはない。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
老子訳注
敢てするに勇なれば、則ち殺され、
敢てせざるに勇なれば則ち活く。
此の両つ者或は利あり或は害あり。
天の悪む所、
孰か其の故を知らん。
是を以て聖人すら猶之を難しとす。
天の道は
争わずして而も善く勝ち、
言わずして而も善く応え、
召かずして而も自ずから来、
のろのろとして而も善く謀る。
天網は恢恢、
疏にして而も失わず。
何ものをも顧みないで勇敢にやれば、殺されるだろう。勇敢に「進んではしない」ようにすれば、生きられるだろう。この二つの勇敢さの結果として、あるばあいには有利であるし、あるばあいには損害を受ける。天の嫌うことは、だれがそのわけを知ろう。こうしたわけで「聖人」もはっきり言いにくいのだ。天の「道」は争わずにうまく勝ち、ものを言わずにうまく答え、招かずにひとりでにやって来させ、ゆっくりしているがうまく計画を立てる。天の網はきわめて広大で、網の目はまばらだが、もれることはない。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
老子訳注
企つ者は立たず。
跨ぐ者は行かず。
自ら見る者は明らかならず。
自ら是とする者は彰れず。
自ら伐る者は功無し。
自ら矜る者は長かず。
其の道に在る也、
余食贅行と曰う、
物或に之を悪む、
故に道有る者は処らず。
かかとをあげて高く立とうとすれば、かえってしっかり立っていられない。大またで歩くならば、かえって早く行けない。自分の目だけにたよるならば、かえってはっきりと見られない。自分が正しいとするならば、かえって是非がはっきりしない。みずから誇るのは、成功しない。うぬぼれておれば、導くことはできない。(以下のことは)「道」の原則から考えると、残飯や余計なこぶだというしかなく、だれもがそれを嫌うから、「道」を得た人はそういうことに満足しないのである。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
老子訳注
「曲がれば則ち全く、
枉まれば則ち直く、
洼めば則ち盈ち、
敝るれば則ち新たなり、
少なければ則ち得、
多ければ則ち惑う」と。
是を以て、
聖人は一(道)を抱いて天下の式と為す。
自ら見ず、
故に明らかなり。
自ら是とせず、
故に彰る。
自ら伐らず、
故に功有り。
自ら矜らず、
故に長く。
夫れ唯争わず、
故に天下能く之と争う莫し。
古の所謂「曲なれば則ち全し」とは、
豈に虚言ならん哉。
誠に全くして而うして之に帰するなり。
「くねくね曲がっているとかえって完全さを保てる、かがんでいるとかえってまっすぐに伸びることができる、低いとかえって満ちてあふれることができる。古くさいとかえって珍しがられ、(知識が)少ないとかえって収穫があり、(知識が)多いとかえって迷う」。
こういうわけで、「聖人」は「道」(一)を天下の運命を観察する道具[栻]とする。自分の目だけにたよらない、だからこそはっきりとわかる。自分が正しいとしない、だからこそ是非がはっきりする。みずから誇らない、だからこそ成功する。うぬぼれない、だからこそ導くことができる。まさに人と争わない、だからこそ天下にかれと争って勝てる人はだれもいないのだ。いにしえのいわゆる「くねくね曲がっているとかえって完全さを保てる……」(このことば)はどうしてでたらめだろうか。これで人はほんとうに完全さが保てるのだ。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
老子訳注
太上は、下之有るを知るのみ、
其の次は親しみて之を誉め、
其の次は之を畏れ、
其の次は之を侮り、
信足らざれば、
信ぜられざること有り。
悠かなる兮、其れ言を貴び、
功成り事遂げて、
百姓皆謂う、「我は自然なり」と。
もっともよい支配者、人びとはその存在を知っているだけである。そのつぎの支配者、人びとはかれに親しみ、称賛する。さらにそのつぎの支配者、人びとはかれをおそれる。いちばん後の支配者、人びとはかれを軽蔑する。信任するに値しないからこそ、信任されないという事態がおこるのだ。(もっともよい支配者は)かくもゆったりしていることよ、かれはほとんど命令せず、事がすっかりうまくいくと、人びとはこぞって言う、「われわれは本来こうなるのだ」と。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
老子訳注
天下皆美の美たるを知る、
斯れ悪なり矣。
皆善の善たるを知る、
斯れ不善なり矣。
故に
有無相生じ、
難易相成り、
長短相形れ、
高下相傾き、
音声相和し、
前後相随う。
天下の人びとはみな、どのようであれば美しいとされるかを知り、そこに醜いということが生じた。どのようであれば善だとされるかを知り、そこに悪ということが生じた。それゆえ有と無とはたがいに対立しながら生じ、難と易とはたがいに対立しながら発展し、長と短とはたがいに対立しながら形づくられ、高と下とはたがいに対立しながら存在し、音と声とはたがいに対立しながら調和し、前と後とはたがいに対立しながらあらわれる。
坂出祥伸・武田秀夫 訳
フェルナンド・ペソア「ポルトガルの海」
感じるとは なにものかに神経を集中しないでいることだ。
「わたしが一冊の」より
フェルナンド・ペソア「ポルトガルの海」
腕を掴むな
掴まれるのは嫌いだ 一人だけでいたいのだ
一人だけでだ 忘れるな
仲間に這入れなどと言われるのは遣り切れない
「Lisbon Revisited」より